2019年5月1日をもって本邦の元号は平成から令和へ改められた。天皇の生前退位による。これは江戸時代の光格天皇以来のことで、約200年ぶりだということである。祝賀行事の一環だろうか、4月29日から5月6日までの
10日間が連休になった。
前例のない長期連休を、さあどう使うか、いやどう過ごすか。マスコミはさまざまに挑発し煽動する。世の善良なる市民は、それに乗せられて国内外の観光地行楽地へいそいそと出掛ける。
見知らぬ土地へ旅をして知見を広めるのはよいことだ。あわせて日頃の生活で蓄積された疲労が解消できれば、いうことはない。ただどこへ行っても同じ目的を持った人たちと出会い、またそこで一緒くたに揉まれるから、はたして疲労回復になるのかどうか。いっそ人が出払った町なかに居残る方が得策かもしれない。近所の並木の新緑も、遠い行楽地の新緑も、新緑に変わりはないのだから。
さて、では、わが連休の消化過程をご報告する。と申して――何ほどのものでもない。まず、しばらくうっちゃっていた「フェルメール展」(大阪市立美術館)へ、閉展の期日が迫って来たので慌てて足を運んだこと。ただしフェルメール展とはいうものの、彼の作品は6点のみ。しかも人気の高い『真珠の耳飾りの少女』は欠、あとは同時代(17世紀)のオランダ絵画、併せて45作品の展示だった。それでも超満員で、絵よりも人の後頭部ばかりを見る次第と相成った。これが5月3日。
翌4日には東都から帰って来た愚息ら、それに愚妻と義母といっしょに有馬へ一泊で行く。愚息らが幼児のころから馴染みのグランドホテルに投宿し、温泉と食事を楽しむ。大浴場の大窓から新緑の山並みを眺望する。絶景かな!
6日、帰京する愚息らを見送ったのち、午後2時、芦屋ルナホールへ出掛け、ジャズのビッグバンド「モダンタイムス」第9回レギュラーコンサートを聴く。
ゲストヴォ―カルは朱夏洋子。曲目は30年代、40年代のスタンダードナンバーが中心。そのせいか一杯の客席には中老年のファンが目立つ。同世代の愚生も『カモンナマイハウス』や『身も心も』などを楽しんで聴く。帰途、阪神芦屋駅近くの洋風居酒屋「おさむ」に寄り、同行の愚妻と白ワインのボトル1本を空ける。
7日、故金谷信之氏を偲ぶ会に出席。高校の大先輩、といっても氏は旧制一中卒だから年代が違う。関西地区の同窓会でご一緒させていただき、以後酒席もしばしばご一緒させていただいた。一中を首席で卒業後、六高、東大、丸善石油と、まさに理系秀才の経歴であるが、晩年の生活録(癌闘病記を兼ねた)『のぶゆき残日録』(渓水社)ではその筆の赴くところ、理系の枠を超えて、歴史、文学、教育、人生一般から市井の雑事まできわめて広範囲な事象を165段にわたって観察し考証し報告している。その生涯と人柄が如実に窺われて興味深い。出席者8名と小人数の会だったが、いずれも生前の氏に親炙した人ばかりで、まずは献杯、あとは談論風発のうちに在りし日の氏を偲ぶ。
9日、劇団清流劇場の次回公演『アルケスティス異聞』の稽古(といってもまだシナリオの読み合わせ段階)に顔を出す。愚生は、これにはシナリオ担当として責任を分担することになるから、ひときわ力が入る。稽古後、持参したシチリアワインで乾杯し、新たなる出発を誓う。
かくして連休は瞬く間に過ぎた。以上。