2019年10月15日

[vol.57]針江生水

誘われて針江生水(はりえ・しょうず)の郷へ行ってきた。大人の秋の遠足である。

琵琶湖の西岸をほとんど北端まで北上する。JR湖西線では新旭駅の近くになる。辺り一帯には比良山系に降った雨雪が地中に潜伏したのち清水となってぽこぽこと湧き出している。生水(しょうず)である。どの家も庭先きや台所にこの噴水泉を有し、生活水として使っている。これを「かばた」と称する。
各噴水泉をつなぐ水路が張り巡らされていて、そこには鯉やアユが跳ね回っている。かつては各家の水場に浸けられた釜の飯粒が格好のエサになっていたのだという。魚影を見なが地区を一巡する。途中の禅寺正伝寺には噴泉から生じたけっこう大きな池もある。

付近の小さな酒蔵を訪ね、湖北の銘酒「松の花」を試飲する。やや辛口。杜氏は能登から来るというが、その姿は場内になく、今年の酒造りはまだ始まっていない。家への土産に一瓶購入する。

昼食は近くの牧場内にあるレストランで焼き肉だった。夕食は、それを目当てに来たアユの予定だが、その前に近くにある大農園で栗拾いをする。西日照るなか、草むらに落ちた栗のイガの中から実を取り出すのに苦労しながら奮闘し、なんとか土産に持ち帰るだけの量を確保する。いささかの汗と疲労。

アユは絶品だった。都会の街中で売られ食されているものとちがって、身が引き締まり、生前は精悍なアスリート(!?)であったか、と思わせるような姿態。体長約15cm。それを焼いて、少々の塩だけで食す。まことに美味い。5、6尾くらいはまたたくまに胃の腑に収まる。合わせる酒は、同伴者の意向もあってよく冷やした白ワイン。これが意外といける。お添えに近江肉のローストも付く。これまた美味。

ワインを選択するときに、肉料理には赤と教えられるが、要は自分の舌に合えばよいのであって、俗説(!?)に惑わされることはない。すべて美の基本は己にあるのである。

とっぷり暮れた午後8時、宴を終えて帰路につく。
posted by 出町 柳 at 10:00| Comment(0) | 読む・歩く・飲む
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