郷里の金沢から台風一過後にぶり返した暑さの中、神戸まで報告に来てくれた、
「ふ―、暑い、台湾より暑いですね」と言いながら。
クーラーを浴びせるようにして汗を取らせたのち、愚妻と三人で予約しておいた鮨処「真砂」へ乗り付ける。午後三時、客の影はまだ無い。金沢も海の幸に恵まれた町だが、同じ海の幸でも瀬戸内海を控えた京阪神では夏はなんと言ってもやはり鱧にとどめを刺す。ということでまずは湯引きから始める。飲み物はビールで喉を潤したあと「白鶴」の冷酒を注文する。
「このあとはどうするの?日本へ帰るのか、それとも……」
「来年5月まで向こうにいます。日本語学校の教師を続けながら」
「それから?」
「どこか商社みたいなところがあれば……」
「中国語を生かせるような?」
結婚問題もある。急ぐこともないが、急がないわけにもいかない。
前回帰国したときは「東京で会わなきゃならないことになっていて」ということだったが、「その後いろいろありまして」いまは白紙です、と言う。いつの世もこの件だけは難しい。
刺身の盛り合わせやらカツオのタタキ、それも一段落して握りをつまんだりしているうちに夕刻となる。
珍しいことに知り合いが二組入ってきて「やあ、やあ」ということになる。盆明けの週末である。けっこう客が立て込んできた。
N嬢はなかなか行ける口である。それに合わせて盃を重ねるうちにこちらもほろ酔い機嫌になってきた。昼間から飲む酒はよく効く。8時前に腰を上げ、大阪のホテルに帰るN嬢を住吉の駅に送る。
久し振りに台湾の風に当たって気分は爽快。彼女と毎週顔を合わせていた教室がゆくりなくも思い出され、しかしそれで元気を貰う。
先般釜山まで船で旅をしてきたが、あれに台北までというクルージングもあるらしい。N嬢がまだいる間に台湾を訪れてみるのもいいかなと思う。日影丈吉の筆の跡をどこまで辿れるか不明だが、一番のお目当ては台南の高雄である。
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