2019年01月01日

[vol.38]長府そして萩まで

秋に小さなツアーに便乗して旅をした。年が明けたからもう昨年のことになる。昨年秋の劇団清流劇場公演『メデイア』(10/17〜21、一心寺シアター倶楽)に関わって濃縮した5日間を過ごしたその骨休めである。

某日夕刻大阪の泉大津で船に乗り(阪九フェリー)、ツアー所定の船の夕食を食べながら瀬戸内海を西航。翌日目を覚ますと新門司港である。上陸後はバスで目と鼻の先の下関に渡り、唐戸市場を冷やかす。あとは道なりに山陰の海岸に出て長府まで。

好天である。沿道の家々には熟れた柿の実が葉を落とした木にびっしり。飢えていた昔を思い出すと今にも跳び付きたいところだが、一向に減っていないのをみると今どきの子供たちは見向きもしないのか。陽が西に傾く頃、宿の「大谷山荘」に入る。

翌日は萩へ。松陰神社や城下町の風情を楽しむ。どことも家々の生け垣の中で夏ミカンが実を着けている。その静かで落ち着いたたたずまいは、維新で暴れた長州藩士の本拠地とは到底思えぬほどである。藩主の屋敷も――昨日見た長府の支藩のそれはまことに小ぶりで質素であった。

さて、「大谷山荘」のことも言っておかねばなるまい。ここはアベさんがロシアのプーチンさんの接待に使った宿として有名になったが、山陰海岸から少し山中に入った音信川のほとりにある近代的なホテルである。部屋もモダンな造りで、都心のホテルと変わるところがない。なにより嬉しいのは南窓の一角に露天風呂形式の湯殿があり、山峡を一望しながら湯を楽しむことができることだ。夕食もプーチン効果で一躍全国に名が知れ渡った銘酒「獺祭」をお伴に、山海の珍味をじゅうぶんに楽しむ趣向。

言い忘れたが先夜の船中泊も決して悪くはなかった。知人にクルーズ愛好家がいる。夏の終わりに香港まで行って来たらしく、洋上の豪華客船では「寝ていてもエンジン音も振動もぜんぜん無し、静寂極まる」とのたもうていたが、なに、瀬戸内海は波静か、船もそれなりの大きさがあるゆえに、毫も気遣う要なし。たまに聞こえる波音も、祇園の宿の枕の下ゆく白川の瀬音と思えば、いっそ粋というもの。朝食が焼いた塩サバに味噌汁というのも嬉しい。

山陰海岸の青海島を真向かいに臨む仙崎の町は童謡詩人金子みすずの故郷という。一篇上掲し、敬意を表したい。
鯨法会
鯨法会は春のくれ      おきでくじらの子がひとり
海にとびうおとれるころ   その鳴るかねをききながら
はまのお寺で鳴るかねが   死んだ父さま、母さまを
ゆれて水面をわたるとき   こいし、こいしとないてます
村のりょうしがはおり着て  海のおもてを、かねの音は
はまのお寺へいそぐとき   海のどこまで、ひびくやら

バスは萩から広島まで走る。
駅ビルのスペイン・バルでワインを飲み、新幹線で帰途につく。
posted by 出町 柳 at 10:00| Comment(0) | 読む・歩く・飲む
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